突発性難聴
突発性難聴とは名前の通り、ある日突然耳が聞こえなくなる病気です。通常耳鳴りを伴います。ほとんどの場合は片側にしかおこりません。約半数にはめまいを伴います。
会社員のAさん(35歳)はある朝起きると右耳にジーという耳鳴りがしていました。起きあがろうとしましたが、体を動かすと周囲がぐるぐると回転し起きあがれませんでした。何とか起きあがりましたが、めまい、吐き気があり、そのうち右耳が聞こえていないことに気づきました。すぐに耳鼻咽喉科専門医の診察を受けたところ、右の内耳が障害されほとんど聞こえない状態であることが判明、直ちに入院となりました。
ひとくちに突発性難聴といっても片耳が全く聞こえず、めまいがひどくて起きられないAさんのような例から、少し耳鳴りがして耳がふさがった感じでめまいのない軽症例まで、程度はさまざまです。特に軽症の場合、「そのうち良くなるだろう」と様子をみている患者さんが少なくありません。後ほど述べますように、突発性難聴は早期治療が必要な病気ですのでこれは問題です。
突発性難聴の原因にはウイルス説と血流障害説とがあります。いずれも確定的な証拠はありません。突発性難聴は原因不明の病気ですから治療は手探りの部分もありますが、いくつかの治療法が有効であることが経験的に知られています。まず、治療の基本はストレスを避け安静にすることです。したがって難聴の程度やめまいの有無にもよりますが入院治療が原則となります。治療は早く始めなければなりません。治療が遅れると、回復も困難になることが多くなります。発病から14日以内に治療を開始しないと治りにくいと言われています。副腎皮質ホルモン剤、ビタミン剤、血流改善剤、血管拡張剤などを点滴や内服で投与します。Aさんの場合、副腎皮質ステロイドホルモン剤の点滴と血管拡張剤の内服を行ったところ、約2週間で聴力は完全に回復しました。しかし残念ながら、すべての患者さんがAさんのように完全回復するわけではありません。早期に治療を開始したにもかかわらず、部分的にしか回復しなかったり全然良くならなかったりすることもあります。ただ、早く治療を開始したら治る可能性が高くなることだけは間違いないようです。
難聴にめまいが伴う病気としてメニエール病があります。突発性難聴とメニエール病は全然別の病気ですが症状は似ています。メニエール病は何度も繰り返すのが特徴です。突発性難聴は通常繰り返すことは有りません。また聴神経腫瘍(内耳神経に発生する良性腫瘍)でも突発性難聴と類似の症状が出る場合があります。しかし、これら突発性難聴類似の病気と突発性難聴を患者さんの自己判断で鑑別することは禁物です。病気が違うと治療法も全く違うわけですから、まずは耳鼻咽喉科専門医による診察、検査が必要です。
突発性難聴の症状はつらいですが、この病気は早く治療すれば治る可能性が有ります。早期診断、早期治療が肝要です。