人工内耳
人工内耳とは、世界で最も普及している人工臓器の一つで、蝸牛(内耳のきこえに関係した器官で、音の機械的な刺激を電気信号に変換する場所)の中に電極を埋め込み、聴えの神経を電気刺激して聴覚を得る治療法です。鼓膜や、音を伝えるための小さな骨(耳小骨)が原因の伝音難聴は、処置や手術によって改善する可能性がありますが、蝸牛が原因の感音難聴はこれまでの医学では治療は困難でした。蝸牛が原因の高度難聴の場合は、まず補聴器を使用し、効果を認めない場合に人工内耳の適応となります。わが国では昭和60年に初めて人工内耳が使用され、香川大学でも平成5年から人工内耳手術を行っております。平成6年4月に保険適用が認められてからは急速に増加しており、さらに新生児聴覚スクリーニング検査の普及や平成26年の小児人工内耳適応基準の見直しにより、より低年齢で人工内耳を使用する症例が増加しています。
人工内耳の原理
人工内耳装置は体内に埋め込む受信装置と、音をマイクで拾って電気信号に変換して体内に埋め込んだ部分へ送る体外装置から成り立っています。受信装置に伝わった電気信号は、蝸牛の中に埋め込んだ電極から聴神経を介して脳に送られ、音として認識されます。
人工内耳の適応
身体障害者手帳をお持ちで、聴覚障害の2~3級に認定されており、補聴器を使用してもほとんど会話が理解出来ない方が人工内耳の適応になります。活動性の中耳炎、重度の精神発達遅滞、中枢性の難聴は適応になりません。小児に対する適応基準は、平成26年に見直しが行われ、原則1歳以上(体重8㎏以上)で、聴力検査で90デシベル以上の高度難聴を認め、補聴器を少なくとも6ヵ月以上使用しても効果を認めないと判断した場合に手術適応となります。しかしながら、小児の場合は慎重に適応を決める必要があります。その理由として、①自身で手術を受けることを決めることができないこと、②年齢あるいは発育のために正確な聴力が分かりにくい場合があること、③人工内耳の電極を蝸牛に埋め込むことにより残された聴力が悪化する可能性があること、④90デシベル以上でも補聴器が上手に使える場合があること、などの問題があります。また、幼児期からの人工内耳の装用には長期にわたる支援が必要であり、継続的な家族の協力がとても大切です。そのため、保護者はもちろんのこと、医師や言語聴覚士、術後のリハビリテーションに関係する療育施設の担当者の意見の一致が必要になります。
人工内耳術後のリハビリテーション
人工内耳の効果には個人差があり、手術を受ければ、すぐに聞こえるようになるわけではなく、手術後に根気強いリハビリテーションが必要です。成人になってから聞こえなくなった方ではふつう、術後6カ月程度で言葉の聞き取り能力は向上し、安定しますが、聞こえなかった期間が長かった方では安定するまでもう少し長くかかります。また、生まれつき聞こえない子供さんの場合は人工内耳の手術をうけたときが「お耳のお誕生日」であり、数年かけて音への反応が徐々に向上していきます。このため、特に子供さんにおいては長期間の根気強いリハビリテーションが必要になり、継続的な家族の協力や難聴通園施設や聴覚特別支援学校との密接な連携が不可欠です。
身体障害者3級以上に認定されており補聴器を使用しても会話が困難な方は一度、近くの耳鼻咽喉科専門医にご相談ください。