禁煙治療について
たばこを吸うことが喫煙者本人の健康を害するだけでなく、それどころか周りでその煙を吸った場合(受動喫煙)、さらに喫煙者が家の中でたばこを吸わなかったとしても一緒に暮らす家族にまで健康被害を与えることがわかってきています。なんとなく吸いはじめただけなのに、いつの間にかたばこと離れられなくなってしまうのはなぜでしょう。これはたばこの煙に含まれるニコチンという物質が麻薬にも劣らない強い依存性をもつからです。禁煙の困難さはヘロインやコカインを断つことの困難さと同等と言われています。そのため、現在では、喫煙習慣の本質は「ニコチン依存症」であり、治療が必要な慢性の薬物依存症(つまり病気)と認識されています。
たばこをやめる方法として次の3つがあります。①薬を使わずに自力で禁煙する。②薬局で処方箋なしで買えるニコチンガムやニコチンパッチを利用して禁煙する。③医療機関の禁煙外来を受診して禁煙治療を受ける。
ここでは③についてお話しします。健康保険で禁煙治療が受けられる日本の医療機関は2014年7月現在で15000施設を超えています。病医院が敷地内禁煙などの施設基準に適合し、届出をして認可を受ければ内科、耳鼻咽喉科など診療科を問わず禁煙治療の保険診療は行われています。そしてインターネットなどで、禁煙の保険診療を行っている医療機関を探すことができます。
では実際にはどのようなことが行われているのでしょうか。禁煙外来では、まず喫煙状況や健康状態について詳しい問診をうかがいます。吐く息の中のたばこ成分である一酸化炭素濃度の測定も行います。保険診療では1年間で連続3か月間だけ禁煙治療ができます。3か月間ずっと薬を内服した場合、診療代と薬局の費用を合わせて、3割負担で18000円程度の費用です。禁煙できていなくても3か月が過ぎると、健康保険を使っての禁煙治療薬の処方はできなくなります。しかし禁煙外来初診1年後からは再チャレンジが可能となり、当初の3か月間は2度目の禁煙治療を行うことができます。
禁煙外来では、初めに禁煙治療の必要性や治療の流れ、3か月間で5回の通院の必要性、用いるお薬の種類(ニコチンパッチかニコチンを含まないバニレクリンという飲み薬の2種類が一般的)の説明など行い、患者さんが治療を希望されたらニコチン依存症の治療が始まります。バニレクリンという内服薬のほうがニコチンパッチよりも禁煙率が高く、7~8割の人が禁煙治療開始後3か月時点でたばこが止められます。しかし、その後再度喫煙を始めてしまう人が1~2割出てしまいます。ニコチン依存症であるという状態は一生続くのであり、お酒の席で「1本だけ吸ってみよう」と思っても、1本で終わらないことを十分理解して再喫煙に注意する必要があります。